こんにちは 大川 由貴(おおかわ ゆき)です!
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つまみ細工の白い靴の誕生秘話

 

 

 

2016年の冬

当時の私は体調を崩して寝込んでいる日が多かったです。

数か月後には専門学校を卒業、その後は内定を頂いた会社に就職予定だったので、悔いが残らないようにと卒業制作に精を出していた頃のお話です。

 

私の場合は仕送りのない1人暮らしだったので日中は学校、放課後はアルバイト、休みの日は就職先のインターンで大変忙しい日々を送っていました。

朝6時には起きて家を出るまでは課題をこなし、登校してから夕方までは学校

その後は深夜までアルバイトで帰宅後も深夜の2時くらいまで卒業制作の作業をしていました。

休みの日もインターンで日中は正社員と変わらないシフトで働き、それが終わればまたアルバイト

1日に3~4時間くらいしか寝れない日々が数か月続きました。

 

今思えば随分とブラックな、どう考えても無理があるスケジュールなのですが、学生生活も就職活動もしっかりこなしたいと必死でした。

私の場合は親に頼れる状況でもなく、働かないと生活が成り立たない。

専門学校は平日は毎日朝から夕方まで授業のあるクラスに通っていたので、

合わせてお金を稼いだり、課題をこなしたり、就職後の勉強したりするのは、休みの日もフル活用しても全然時間が足りませんでした。

 

朝6時から深夜2時まで学び、働き続ける日々

それでも学校の先生からは卒業制作(4年間の集大成)なんだから頑張れ、と

アルバイト先からは他の子はもっと出勤しているんだからシフトに出てほしい、と

インターン先では就職後は学校で学んだことなんてほとんど役に立たないんだからインターンに集中してほしい、と

もっともっと頑張れ、努力が足りないと責められる日々でした。

 

中学生の頃から憧れて入学した学校だったので、私は学校も授業も好きでしたが…

その時私のお勤め先にいた大人はそうではない人が多かったので、「学校なんか行く意味ない」から人手の足りない職場を想いやってほしいと言われていました。

社員さんが期待している仕事ができないと「役立たず」や「給料泥棒」と言われることもありました。

学校の先生も、バイト先の人も、インターン先の人も接している時間しか私のことを知らないので、それ以外の場所で頑張っているのは想像しがたいと思うのですが、しんどい思いをわかってもらえないことが大変でした。

学校やバイト仲間は好きだったからこそ、上手くこなせない私自身にも焦りや苛立ちを感じていました。

 

大人になった今振り返ってみれば、人手が足りないことによるしわ寄せをバイトやインターンの学生に押し付けるような職場は、あんまり良いところではないと判断ができるのですが、当時の経験も余裕もない私には、生活も成り立たなくなるのでやめる判断ができませんでした。

 

ある日とうとう身体を壊し、お医者さんに休むように診断書をもらい、そこでやっとバイト先の人もインターン先にも休みを咎められなくなりなりました。

 

心からわかってもらえたとは思いませんでした。

追い詰めすぎて辞められたら困ると必死に弁解されたので、私の為ではなく、お店や会社の為の休職期間ということは理解していましたが、それでも一時的に学業に専念できることに喜びを感じていました。

 

薬の副作用で通常通りにとはいきませんでしたが、簡単な作業はできるぐらいに回復した頃

私はつまみ細工の靴を作っていました。

 

服飾系の専門学校で、私は着物リメイクをテーマに和ドレスを制作していたので、在学中は着物に関することを積極的に研究していました。

つまみ細工もその一つとして独学で身につけていたものです。

幸い、卒業制作は大掛かりで体力も必要なミシン作業や、頭を使うようなレポート作成は身体を壊す前に終えていたので、より作品のクオリティを上げるように付属のアクセサリーや細かい装飾作業を追加する段階でした。

卒業制作の写真撮影も控えていたので、少しでも良く仕上げたいとつまみ細工のアクセサリーを作っていた時です。

 

ふとウエディングシューズが目に入りました。

写真撮影用に譲ってもらった中古のシューズです。ウエディング用にはだいぶ色もあせて、傷や汚れもあったので撮影後は破棄予定のシューズでした。

(撮影予定のドレスは靴は完全に見えないデザインだったので、背を高くする為だけなら汚れた中古でも問題なかった。)

 

「つまみ細工で飾ったら綺麗かも」

 

そんな突拍子もないアイデアがひらめきました。

と同時に「でも、ものすごく時間がかかるな」とも頭をよぎりました。

 

つまみ細工は生地を1枚1枚正方形に切り出し、手作業で折って貼ってを繰り返す手間のかかる工芸です。

頭飾り用のお花1つ作るにも数十分、デザインや大きさによっては何時間とかかるので靴全体に施すのはものすごい時間がかかることは目に見えています。

材料もつまみ細工用として販売されている羽二重は高価な素材で取り寄せれば数万円とかかることもわかっていました。

身体を壊している学生にとってはなかなか痛い金額です。

 

今までの忙しすぎる生活だったら、締め切りまでに完成できる自信がもてない、時間がかかりすぎる作品は作る前から諦めていました。

しかし、幸か不幸かその時は病気のおかげで時間が確保しやすかったのです。

問題はお金がないことでしたが、そういえば着物リメイクのドレスを作った際、使わない着物の裏地が沢山余っていたことも思い出しました。

着物の裏地に使われている生地も羽二重で、つまみ細工用として販売されている物より厚みがあることはわかっていましたができないことはありません。

どうせ捨てる予定の靴や生地です。今なら時間もあるので試してみることができます。もし上手くいかなくても初めからドレスに隠れる靴なので問題ありません。

 

少しずつ、少しずつ、案の定時間はかかりましたが、つまみ細工の靴を作り始めました。

つまみ細工の靴なんて見たことも聞いたこともありません。当然、誰かに教えてもらったり、レシピを参照することもできません。

花びらの大きさや、靴に生地を張り付ける接着剤の調合、バランス良く仕上げるために色々と試行錯誤しながら進めていきました。

 

病気の為、あの頃は暗い気持ちになりがちでしたが、淡々と作業に集中している間は辛いことも忘れられるので、つまみ細工に救われていたのだとも思います。

    

何とか完成した時、先生方やクラスメイトからも高く評価していただけて大変嬉しかったことを覚えています。

思い通りに身体を動かせなくて焦ったり、お勤め先からの評価が低かった頃だからこそより鮮明に覚えているのかもしれません。

 

撮影前に完成できたので、友人達に協力してもらい、作品展示も予定通りすることができました。

本当にあの時支えてくれた方々には、感謝の想いでいっぱいです。

 

つまみ細工の靴を作ることで

たとえ時間がかかっても、自分が素敵だと信じたものを作り上げる大切さを学び

良い環境や状況でない中でも、工夫次第で人を感動させられるものは作れるという経験ができたと感じています。

   

大変な思いはしたけど、それでもつまみ細工の靴を完成させ、作品展示ができて良かったと心から思っています。

 

 

展示の様子

 

 

コロナ禍で作った靴の話

2020年、感染症の世界的大流行で世間が不安定になった年

例にもれず私も仕事や予定が大幅に減ってしまいました。

 

2019年に計画していたことの多くが崩れ、会いたい人にも会えない日々

幸い、時間はたっぷりあったので前からやりたいと思っていたことを、できることからやろうと考えました。

その一つが「つまみ細工の靴」です。

 

学校では評価されましたが、繊細過ぎるつまみ細工の靴は商品としては向かないので、初めの白い靴以降作っていませんでした。

新社会人として頑張るべきことは沢山あり、生活の為ならすぐに売れるものを作った方が都合がいいからです。

 

「でも、いつかまたつまみ細工の靴を作りたい」

そんな想いは卒業してからもずっとくすぶっていました。

 

暗いニュースが続く日々

私は政治家や感染症の専門家、あるいは医療従事者のような現場で頑張るエッセンシャルワーカーではありません。

メディアを通して人々を勇気づけるようなパフォーマーやエンターテイナーでもなければ、沢山の寄付を募れるような著名人でもありません。

 

それでも自分のできることで、少しでも明るい気持ちになっていただけたらいいなと思い、2足目のつまみ細工の靴を作りました。

あの時と同じように、家からは出れない分時間はあります。

辛い時こそ淡々と手を動かし、美しい物を作ること

自己満足に過ぎないかもしれませんが、それでも、またつまみ細工の靴を作ってよかったと思います。

 

 

2足目の靴は名古屋のフォトグラファーHASEOさんにお譲りしました。

美しさにこだわって写真を撮られている方です。こちらの靴も作品撮りにも使っていただき、ありがとうございました。

 

大変な時こそ、心が救われるような作品に支えられることがあります。

私自身、「もっと美しい作品を作りたい」とか、「ずっとこの作家さんの作品を見ていたい」とかそんな想いで日々頑張れているのだと思います。

人と人とが合えない時期だからこそ、美しい作品を通して伝えられるものがあればと願っています。

 

 

 

3足目の赤い靴は直に見て頂ける機会を設けたいと思い新春神業展用に作りました。

(展示は2021/01/09~2021/01/22まで)

展示終了後はminneで販売を予定していますが、展示会場では無料でどなた様でもご覧いただけます。

緊急事態宣言下ではありますが、お近くの方は是非見に来ていただけたら嬉しく思います。

   

   

展示会場では初めて作った白いつまみ細工の靴と展示しています。

 

過去に学び経験したこと

そこから今できることで頑張ること

そうしていつかは明るい未来へと歩んでいけるように祈りを込めて展示しました。

 

2021年も大変な日々は続きますが、いつか必ず終わりがくるので

乗り越えていきたいとそう思っています。

  

 

   

2021/02/12追記

「前野呉服店」様のご厚意で【2021/02/18】よりつまみ細工の靴を追加で展示させていただけることになりました。

「一目見てみたい!」というリクエストの多い作品を、また展示できる機会を設けていただき嬉しく思っています。

本当にありがとうございます。

新春神業展用に制作した赤い靴ともう1点新作を展示予定です。お楽しみに

 

 

 

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
ご感想やご質問など、コメントやSNSでいただけたら嬉しいです。
twitter @yuki931206

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大川 由貴(Okawa Yuki)

10歳から手芸や縫製に興味をもち、パタンナーを志望する。高校卒業後は服飾系の専門学校に進学し4年間、服作りについて学ぶ。卒業後は正社員としてアパレルメーカーに就職するも、ファインアート・フォトグラフィーの世界に出会い、フリーの衣装デザイナーへと転身する。衣装制作だけでなく、カメラマン、アシスタント、モデル、子ども写真館の契約社員等、積極的に撮影現場に入りスチール撮影について学ぶ。多岐にわたる経験を活かして、 共同経営で 写真スタジオを開業する。
CGイラストやフォトレタッチにも興味をもち、現在独学で勉強中。

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